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4.ウニの殻に癭(えい)を作るエボシガイの研究

− a stalked barnacle which induces gall on sea urchin's test −

2018 - present

 エボシガイはフジツボの仲間の節足動物で、甲殻類をはじめ魚類、貝類、クラゲ、漂流物等様々な生物や構造物に付着して、長い羽状の蔓脚でプランクトンを濾し取って食べる生活をしています。今回研究対象としたガンガゼタマエボシは、有毒ウニの一種であるガンガゼ上で発見・記載されて以来約30年間、見つかっていませんでした。私は今回、ガンガゼタマエボシを沖縄のガンガゼモドキ上で再発見し(図1左)、その生態や系統を調べました。

 

 成果は以下の通りです。

 

① CTスキャンの結果、柄部の先端を錨のようにウニの殻に突き刺して、ウニの殻の肥厚を誘導していることがわかりました(図1右)。

 

② 安定同位体解析の結果、ガンガゼタマエボシははプランクトン食でも寄生でもなく、周囲の粒状有機物等を食べていることがわかりました。

 

③ 分子系統解析の結果、ガンガゼタマエボシはカニ類に付着生活をするエボシガイ類から起源したことがわかりました。

 

図1. ウニの棘の間に住むガンガゼタマエボシ(左)とえい断面のCT断面図

 以上の3つの成果より、このエボシガイ類は、カニ類からウニへの寄主転換に伴って、宿主への付着方法が接着から投錨へ、食性がプランクトン食から粒状有機物食へと変化したことがわかります。タマエボシは頑丈で永続的な癭に守られつつ(カニは脱皮をするので、付着基盤としては短命)、その狭い空間の中で、相互交尾をして繁殖を繰り返しているという驚くべき生活が浮かび上がりました。

​*発表論文

Yamamori L., Kato M. (2020) Shift of feeding mode in an epizoic stalked barnacle inducing gall formation of host sea urchin. iScience

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3.ニシキウズガイ科の笠型進化の研究

− evolution of limpet-shaped shell in trochidae −

2017 - present

 カサガイ目は腹足綱の複数の系統で生じましたが(Vermeij 2017)、そのほとんどの種は現存していないため、笠型進化を引き起こした生態的要因や笠型進化に伴う形態の変遷はわかっていません。そこで本研究で着目したのが、ニシキウズガイ科のチビアシヤガイ亜科(図1)です。

図1. チビアシヤガイ亜科(ニシキウズガイ科)​の国産4種

 本亜科は巻型から笠型への段階的な種類を含むため、笠型進化の過程を辿れる重要なグループとなり得ますが、その生態は今までほとんどわかっていませんでした。私は、このチビアシヤガイ亜科の国産全種を太平洋沿岸で発見し、その生態と形態を詳しく調査しました。その結果、

①チビアシヤガイ亜科の2種の笠型の殻は、狭く危険なウニの巣穴 / 強波空間という異なる環境に適応的

②チゴアシヤにおける殻の扁平化に伴って、筋肉が劇的に伸長する

ことがわかりました。

図2. ニシキウズガイ科の笠型進化の過程

​*発表論文

Yamamori L., Kato M. (2018) Morphological and ecological adaptation of limpet-shaped top shells (Gastropoda: Trochidae: Fossarininae) to wave-swept rock reef habitats. PLoS ONE 13(8): e0197719

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2.ウニの巣穴に絶対住み込み共生する貝の研究

− an obligate inquiline of sea urchin's pit −

2016 - present

 岩礁潮間帯で優占する藻食者のウニ類は、軟岩質の磯で岩に巣穴を掘って暮らします(図1)。さらに、巣穴で生活するウニは自ら穴を掘る穿孔性のタワシウニと、タワシウニの死後にその巣穴を利用する借孔性のナガウニ・ムラサキウニに分けられます(図2)。

 

 

 

 

 このような巣穴の二次利用は、柔軟な砂泥底では生じない岩盤環境特有の現象です。この岩盤環境特有の巣穴の二次利用が岩盤の生物相に与える影響を調べる為、この穿孔性・借孔性それぞれのウニの巣穴の生物相を調べました。

​図1:ウニのアパート。

黒点ひとつひとつがウニのpit。

​図2:pitで暮らすウニ。 

穿孔性のタワシウニの死後、その巣穴は借孔性のムラサキウニやナガウニに継承される。

 結果、住み込み生物の総数は、借孔ウニの巣穴 > 巣穴外 > 穿孔ウニの巣穴 となり、穿孔ウニの住み込み生物はゴカイやヨコエビ類など細く小さな生物に限られた一方、借孔ウニの巣穴からは、ヤドカリや肉食性の巻貝類など多様な生物が見出されました。また巣内環境については、穿孔ウニに比べて借孔ウニは、巣穴と殻の形が一致しない為、巣穴内に広い空間があることがわかりました(図3)。

​図3:pit内部環境の違いの模式図。借孔性ウニの巣穴には広い空間がある。

 さらに借孔性ウニの巣穴からは、ニシキウズガイ科のハナザラが見出されました(図4左)。ハナザラの扁平な殻(図4右)は、ウニの巣穴内部で危険な棘との接触頻度を下げるのに適応だと考えられます。

*発表論文

Yamamori, Luna, and Makoto Kato. "The macrobenthic community in intertidal sea urchin pits and an obligate inquilinism of a limpet-shaped trochid gastropod in the pits." Marine Biology 164.3 (2017): 61.

​図4:pit内のハナザラ(左)と、横から撮影したハナザラ(右)。 

左:ハナザラはウニの棘によって外敵から身を守っている。スケール:1cm

右:ハナザラの殻は著しく扁平化し、笠型化している。スケール:3mm

1. クラゲの変態機構の研究

   − metamorphosis of jellyfish −

2015-2017

Introduction

 刺胞動物は動物界で最も劇的な変態を行うなかまです。サンゴやイソギンチャクが含まれる花虫綱を除いたMedusozoa (鉢虫綱・箱虫綱・ヒドロ虫綱・十文字クラゲ綱)は無性生殖をするポリプ世代から有性生殖をするクラゲ世代変態します。

 この変態機構の一部が2014年にミズクラゲにおいて解明され、インドールペプチドが変態の引き金となっていることがわかりました (Fuchs et al., 2014)。さらにこの研究で、Fuchsらは5種類のインドール化合物がミズクラゲの変態を誘発する事を発見しました。余談ですが、湿布の有効成分インドメタシンもこの5種類の中に含まれますので、腰痛や筋肉痛の際のポリプの世話は要注意です。

 さて、このミズクラゲにおいて解明された変態機構はどの範囲のMedusozoaまで有効なのでしょうか。つまり、変態誘発物質は、どのくらいの系統で共通しているのでしょうか。私はそれを調べるため、世界一のクラゲ飼育種数を誇る山形県加茂水族館と共同で、どれだけのポリプがインドールで変態するかを実験しました。

図は、論文に載せられなかったクラゲの変態過程の写真です。

​加茂水族館で撮影させていただきました。

 

*引用

Fuchs, Björn, et al. "Regulation of polyp-to-jellyfish transition in Aurelia aurita." Current Biology 24.3 (2014): 263-273.

*発表論文

Yamamori, L., Okuizumi, K., Sato, C., Ikeda, S., & Toyohara, H. (2017). Comparison of the Inducing Effect of Indole Compounds on Medusa Formation in Different Classes of Medusozoa. Zoological Science, 34(3), 173-178.

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